精霊と女性の国 北タイ

12 バイクのタン・ブン
 翌日、私たちはランパーンで買ってきた新品のバイクを道に引っ張り出した。村に入る前、ランパーンの街で布団や三角柱の背もたれなどの家財道具とともに、110ccのバイクを買ってマイクロバスに積んできたのである。
 バイクはタイでは若者たちの乗り物というよりは、人々が生活の便利のために望む物である。交通渋滞で悪名高いバンコクでは、道路をひしめき合う車もさることながら、その間を埋め尽くすバイクのエネルギッシュな光景に圧倒され、めまいのするような思いがしたものだ。その大半が相乗りで、夫の運転するバイクの後ろに妻が乗り、それぞれその前に一人ずつ幼い子どもを抱えている姿を見かけても、もはや驚きを感じないほど人々はフルにバイクを活用していた。
 バイクは村でも人々がもちたいと思う物の一つで、この村の人はトラクターを買うため、南隣の村の人はバイクを買うために銀行から金を借りるのだと、村の人は言っていた。トラクターよりは普及しているが、村ではまだまだ高嶺の花だった。バイクは近隣の行き来にも便利だが、特に村から40キロほどの距離にあるランパーンの街に行くには、人々はシーロー(乗り合いバス)で行くか、バイクを相乗りして行くのだった。
 私は車の国際免許証は用意していったが、バイクの免許はもっていなかった。原付きですら1、2回運転してみたことがあるくらいで、夫にいたってはそれすらなかったが、それでもタイではバイクを買うことができた。さらにバイクを借りて運転することも自由なので、だれかがバイクを手に入れれば、家族はおろか親戚、友人、知人など大勢が交代で借りて乗る。それは村に限ったことではなく、都市で見たたくさんのバイクに関しても同様だったろう。バイク事故も多かった。
 村では10月に22歳の青年が買ったばかりのバイクでランパーンに行く途中、カーブを曲がりきれずに追突して亡くなり、後ろに相乗りしていた男性は大怪我を負った。事故現場では3日前にも、また事故の数日後にも同じようなバイクの死亡事故が起きていた。北タイでは死亡事故が起きると亡くなった「死者の精霊」のための儀礼が行われて、現場に赤いのぼりが立てられる。幹線道路沿いにはこの赤いのぼりをよく目にしたものだが、そのほとんどがおそらく車ではなくてバイクの事故だった。
 夫はエンジンをかけてシートにまたがるや否やものすごい勢いで道端の用水路に突っ込んだが、幸い乾季も終わりにあってそこは干上がっていた。いつの間にか周りに集まっていた村人たちは、バイクを引っ張り上げるのを助けると口々に言った。「タン・ブンに行きなさい」と。
 タン・ブンとはブン(功徳)を積むことだが、具体的には僧に食べ物やお金などを喜捨することをいう。なぜ用水路に落ちた夫がそのバイクと共にタン・ブンしなければならないのか? いぶかしく思いながら彼はメー・カイの5男のプルアンと二人で相乗りして、一つ置いて隣り村のワット(寺院)までタン・ブンに出かけた。ここには学歴の高いことで特に信頼の厚い僧が住んでいたのである。

川野美砂子

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